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■第四回■成功する起業家の資質とは【グロービス経営大学院 主任研究員 山中礼二】

2013年10月09日

「成功する起業家の資質とは」

成功する起業家は、どのような資質を持っているのだろうか?

ここで言う「資質」は、人間的特性のことを指している。「ファイナンス」「ソフトウェア開発」などのスキル面のことではない。

人によって、言うことが違う。「謙虚さが重要」「あつかましさが必要」「ハングリー精神がなければ成功しない」など、諸説ある。

しかしアカデミックな分野では、これらは全く証明されていない。むしろ、人格的特性とベンチャーの成功の相関関係は、私が知る限りほとんど見つかっていない。

その中で、ベンチャーの成功確率を上げる要因をかなり精緻に分析した論文がある。メリーランド大学のJ. Robert Baum氏とEdwin A. Locke氏が2004年に発表した論文である。(注)

 研究のプロセスについての説明を割愛し、いきなり結論から言ってしまおう。以下の3つの要素が、ベンチャーの持続的成長に大きく寄与している。

 

1)自己効力感(Self-efficacy)(相関係数0.34)

  「自分の力で、企業の業績を動かせる」という自信を持っている経営者が、成功する確率が高い。

 

2)高いゴール設定(相関係数 0.26)

  事業規模の高成長を目指し、高いゴールを掲げている企業が、実際に高成長を遂げている。

 

3)伝わるビジョン(相関係数 0.22)

   Baum&Locke2004は抽象的なビジョンではなく、売上や企業規模の拡大に直結するビジョンを高く

   評価してスコア化した。その結果、ビジョン設定が高スコアを示したベンチャー企業ほど、高成長を

   続けていることがわかった。

 

以上の3点は、さほど驚くべき結果ではない。そもそも、事業モデルを確立しかけているベンチャーほどスコアが高くなりそうだ。つまり、将来のベンチャー成功を予測する先行指標とは、言いにくいように思われる。

この論文が本当に面白いのは、その先である。Baum&Locke2004は、上記の3つに影響を与えているファクターを3つ抽出した。それが、以下の3つである。

 

 A)リソース獲得スキル

  (「伝わるビジョン」との相関が0.24。「高いゴール設定」との相関が0.21。「自己効用感」との相関が0.19)

 

 B)情熱

  (自己効用感との相関が0.23)

 

C)執念(tenacity)

  (自己効用感との相関が0.22)

 

情熱と執念は、わかる気がする。しかし、「リソース獲得スキル」(New Resource Skill)とは何だろうか。どうやって測定するのだろうか。

 

この論文によると、「私は新しい事業を始めるために、必要な資金や人材を見つけ出すことに長けている」という文章がどれほど自身に適合するかを、5段階評価で自己評価してもらっている。これはBaum&Locke2004が始めた測定法ではなく、ハーバード・ビジネス・スクールで起業家教育の礎を築いた、Howard Stevensonが研究で使ったアプローチである。

 

このコンセプトは、「起業家的」な思考法の根本を成している。通常のビジネスパーソンであれば、やりたい事業があっても「自分には金がない」「人もない」「時間もない」と、可能性を限定して考えてしまう。それに対して起業家的な思考をできる人は、そのようなリソースは「外部から巻き込めるものだ」と信じる傾向がある。この信念が、「リソース獲得スキル」である。

起業家にも、真に「起業家的」な起業家と、中小零細企業的な起業家がいる。前者は自身の可能性を信じ、自身が保有するリソースの範囲内に制約されることを拒絶する。後者は自身のリソースに制約され、身動きが取れなくなる。

 

 Koala皆さんは、どちらの道を選ぶだろうか?

 

                          グロービス経営大学院 主任研究員 山中礼二

 

 

(注)J Robert Baum and Edwin A. Locke  “The Relationship of Entrepreneurial Traits, Skill, and Motivation to Subsequent Venture Growth” Journal of American Psychology 2004, Vol.89, No.4

 

 

 

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