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■第七回■知的財産を活かした成長戦略【土生特許事務所 弁理士 土生哲也】

2013年11月05日

Numbers And Finance

 みなさん、はじめまして。弁理士の土生(はぶ)と申します。

 私は現在、弁理士として中小・ベンチャー企業を中心に特許等の代理業務に携わっていますが、1995~1997年に政府系銀行でベンチャー企業向け融資制度の立上げ、1998~2001年にはベンチャーキャピタルで投資業務を担当し、第3次ベンチャーブームにドップリと浸っていました。そうした経歴で知的財産の世界に入ったこともあり、特許庁や経済産業局の中小企業向けの知的財産戦略支援事業に多々お声掛けをいただき、中小・ベンチャー企業の知的財産についての調査や戦略支援にも関わってきています。

 このコラムでは、そうした経験を通じて考えてきた、小さな会社が「知的財産」を意識することによって事業拡大を促進する成長戦略をテーマに書いていきたいと思いますので、お付合いのほどよろしくお願い申し上げます。

 

 

「LET’S IPO」のサイトのメインテーマは当然ながら「IPO」ですので、初回となる今回のコラムでは、IPOと知的財産の関係について考えてみましょう。

 IPOを目指すにあたり、知的財産に関してどのような取り組みを進めていかなければならないのでしょうか?

 この疑問に答えるためには、IPOを実現した企業の情報にあたってみることが必要です。 IPO前に発行される目論見書には、知的財産に関してどのように記述されているのでしょうか。今年発行された目論見書の中から、いくつかの例を見てみることにしましょう。

 

■  株式会社エナリス の例

 

「当社グループは・・・自社が保有する技術等については特許権の取得により保護を図るとともに、他社の知的財産権を侵害することのないようリスク管理に取り組んでおります。

 しかしながら、当社グループが販売している製品や、今後販売する製品が第三者の知的財産権に抵触する可能性は完全には否定することはできません。また、当社グループが認識していない特許権等が成立することにより、第三者より損害賠償等の訴訟が起こされる可能性もあります。・・・」

(「第二部・企業情報 第2・事業の状況 4.事業等のリスク ⑤知的財産権について」より抜粋)

 

 

■  株式会社ウォーターダイレクト の例

 

「当社は・・・に関する特許(出願中)及び・・・に関する特許(特許第4681083号)により当社独自の・・・構造を構築しておりますが、これらの特許が侵害された場合やさらに優れた発明がなされた場合、当社の差別化要因の一部が損なわれることになり、顧客獲得に関して影響を及ぼす可能性があります。」

(「第二部・企業情報 第2・事業の状況 4.事業等のリスク ⑤知的財産所有権に関するリスク」より抜粋)

 

■  株式会社オルトプラス の例

「当社は、第三者の知的財産権の侵害を防ぐ体制として・・・事前調査を行っております。しかしながら、万が一、当社が第三者の知的財産権を侵害した場合には、当該第三者から損害賠償請求や使用差止請求等の訴えを起こされる可能性があり、これらに対する対価の支払い等が発生する可能性があります。また、当社が保有する知的財産権について、第三者により侵害される可能性があり、当社が保有する権利の権利化が出来ない場合もあります。・・・」

(「第二部・企業情報 第2・事業の状況 4.事業等のリスク (3)その他のリスク ①知的財産権の管理について」より抜粋)

 

 いかがでしょうか。どの記述も、他社権利の侵害や自社の権利が有効に働かないリスクについて抽象的に触れているだけで、実質的に意味がある内容のようには思えません。なぜ、このような曖昧な記述ばかりになってしまうのでしょうか。

 

その理由は、特許権などの知的財産関連の業務に取り組んでみるとよくわかるのですが、実際のところ知的財産権を取得すれば事業を独占できるというケースは稀であり、知的財産権に関するリスクについてもこれで万全という対応策があるわけではありません。アップルとサムスンが世界各地で特許紛争を繰り広げている例からもわかるように、事業拡大において知的財産権に関するリスクを抱えてしまうことは不可避であり、IPOに向けて求められることは、リスクを完全に回避することではないのです。だからといって、行きあたりばったりの対応を続けているようでは、問題が生じた場合に上場企業としての説明責任を果たすことができないので、重要なのは、どのようなポリシーで対応しているかを説明できるようにしておくこと、知的財産権に関するリスクへの対処も含めた知的財産に対する考え方を整理しておくことです。具体的には、IPOを意識するようになれば、開発プロセスにおける他社権利の調査や出願の要否の判断、関連資料のファイリング等のルールの整備を進めていくことが望ましいでしょう。

 

 こうしたリスク管理、説明責任といった防衛的な側面も、上場企業となる以上はもちろん大切なことですが、IPOをする企業に求められるもう一つの重要な要素は、市場の成長期待に応えていくことです。知的財産に関する取組みには、リスク対応のような守りの側面だけでなく、成長という攻めの側面においても、様々な積極的な効果を期待することができるものです。次回以降は、その点についてお伝えしていきたいと思います。

 

土生特許事務所 弁理士 土生哲也

 

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